AIに仕事を任せる時代の始め方 / 本サービスの想い
どんな変化が起きているのか?
生成AIは「インターネット以来の革命」と言われています。
私は、車はもちろん、物心ついた頃にはインターネットも存在していた世代です。そのため、インターネットが社会に浸透していく瞬間を、当事者として語ることはできません。それでも、学生時代から10年以上AIに関わってきた立場から見ると、生成AIの登場には、過去のAIブームとは明らかに異なる質感があります。
仕事や生活のあり方が、不可逆に、そして劇的に変わっていく感覚があります。
生成AIの本質的な変化は、AIが単に「質問に答える道具」から、「自然言語の指示を受けて仕事を実行し、さらに改善されていく仕組みの一部」になりつつあることだと考えています。これから差がつくのは、プロンプトの上手さだけではありません。AIが動きやすい文脈、ツール、ワークフロー、そしてそもそもの業務設計ができるかどうかです。
私の体感から見た、生成AIの大きな流れを以下に示します。
革新的な創薬AIとChatGPTの衝撃
大学・大学院では、生体信号処理や統計的多変量解析を中心に、データ解析に取り組んでいました。社会人になってからは、効果検証をしたり、テーブルデータ(Excelで表現されるようなデータ)を主な対象とした機械学習に勤しんでいました。創薬AIモデルを構築するためのフローを作ったり、コロナ禍には重症化予測モデルを国立国際医療研究センターで構築していました。
そんな中、創薬AIの領域で、AlphaFold2をはじめとする、Transformer以降のattentionベースのモデル群が次元の異なる精度を叩き出していく流れに触れ、「ゲームが変わってきている」という感覚を覚えました。
そこで、今の生成AIの基礎にもなっているTransformerというモデルの構造を中心に、一人で勉強していました。当時は、主に創薬AIへの応用を念頭に置いて勉強していた感覚が大きかったです。
少し余談ですが、日本で話題のSakana AIの創業者には、David Haさん、Llion Jonesさん、Ren Itoさんがいます。そのうちLlion Jonesさんは、Transformer論文『Attention Is All You Need』の共著者です。LlionさんはWeights & Biases(私が2023年から働いている会社)のユーザーさんでもあり、Weights & Biasesのイベントにも何度かご参加いただき、お話しさせていただいたことがあります。常に、直近で解決できそうな課題ではなく、数年先の難しい課題について考えておられる、非常に聡明な方です。
Coding Agentによる、もう一段のゲームチェンジ
そんな中で、2022年下旬にChatGPTがリリースされ、今までの自然言語処理の能力を遥かに凌駕した、自然言語の解釈能力に度肝を抜かれました。人間が自然言語で意図を伝えるだけで、調査、要約、設計、デバッグ、資料化、画像生成などの仕事の広い範囲が実行可能な対象になったことで、データサイエンティストだけでなく多くの人がAIを使えるようになったという変化に圧倒的なゲームチェンジを感じました。
そして、2025年には、AIがコーディングをするCoding Agentが実用的なレベルにまで発展し、そこでも大きなゲームチェンジが起こりました。Coding Agentが本格的に出てくる前は、ChatGPTをはじめとするチャットにコードの指示を投げながら、バグの解決を手伝ってもらう流れでした。しかし、Coding Agentはエンジニアが利用するターミナルやIDE(コードのやり取りをしている、多くのケースでは黒いアレです)上で直接動き、指示通りにコードを編集してくれます。指示やCoding Agentが動くツールの整備(ハーネスといいます)がうまければ、人の介入がほとんどないまま、新規プロダクトのモックや既存プロダクトの新機能が開発されていきます。中途半端なソフトウェアエンジニアの存在価値は瞬く間に薄れ、プロダクトロードマップ、タイムライン、チームの考え方も大きく変わっています。
AIにコードを書かせることを、Andrej Karpathyは2025年2月3日にXで“Vibe Coding”(該当ツイート)と表現し、それ以降Vibe Codingという名前でブームになっています。2025年3月前半に会社のオフサイトが西海岸であり、ボランティアで開くVibe Codingのセッションが猛烈に盛り上がっていたことを思い出します。当時は先駆者から手ほどきを受けて、非エンジニアがVibe Codingの環境をセットアップし、まだ使っていない人が「マジかよ。こんなレベルまでいってんのかよ」と、良くも悪くも大きなショックを受ける光景が広がっていたことを覚えています。
なお、1年後の2026年2月5日には、人々が高品質なプログラムを作る際に、“Vibe”から、よりコントロールの効いた品質の高いアプローチを模索し、今後そのトレンドが増えていきそうなことから、とにかく雑に作る“Vibe Coding”と区別する形で別の呼び方をしている。その中で、品質の高いプラクティスとしてCoding Agentを使うことを意味するフレーズの中で彼が好きなのは“agentic engineering”(該当ツイート)だ、とXでツイートしています。
この流れも重要です。Coding Agentを正しく、どんどん制御の効いた形で使うプラクティス(Harnessといいます)と、それを支える実際のサービスも進化してきており、人間の手を介さずに仕組みを作っている人と、そうでない人の間で差が広がりつつあります。GPUの消費量ではなく、トークン(厳密には違いますが、生成AIが予測する文字だと思ってください)をどれだけ1日で消費する仕組みを作れるかの合戦になっています。私の会社でも、創業者がCoding Agentの利用状況を社内でトラッキングする仕組みを作り、誰が最も多く使えているか、誰が量だけではなく質の面でもうまく使えているか(最終的に製品になった機能の数で、トークン数を割る)を見ています。そしてビジネスパーソンにとって重要なことは、2025年下旬から2026年上旬にかけて、CodexやClaude Codeをはじめとするツールが、ビジネスパーソンにとっても圧倒的に使いやすく進化していっているということです。この流れは無視できないものと考えています。
差がついていくポイント
生成AIを使い始めた人の多くは、まずプロンプトを工夫します。目的を明確にする。前提を入れる。出力形式を指定する。これは重要です。曖昧に頼むより、構造化したり、具体的な制限をつけて頼むほうが良い結果になります。 ただし、プロンプトの上達だけでは限界があります。実際の業務はテキストのやり取りだけではなく、別のツールを開いたり、別のツールの間で情報を渡したり、過去の文脈も含めないと正しい回答が得られないこともあります。チャットだけでは結局、人間が毎回同じ説明を補う労力をなくしきれませんでした。そうした課題を解決するために、ツール実行をフロー化するDifyやn8nというツールを駆使する人も2024年以降出てきました。ただし、例えばDifyの場合、ある程度自分で流れを作らなくてはいけなかったり、修正に少し時間がかかったりします。
先ほど説明したコーディングエージェントをうまく使うと、こうしたフロー構築や修正をより少ない労力で、また柔軟に行うことができます。
業務をAIに任せるには、ワークフローの構築だけではなく、そのワークフローの改善も重要です。「AIは使いながらよくなっていく」という言葉を聞いたことがあると思いますが、正しくは「AIモデルが一般的に賢くなる」か「もし改善の仕組みを組み込めば賢くなる」です。何も考えずに使っていると、使う側がなんとなく慣れていく程度にしかなりません。ただ、その仕組みづくりはコードを理解しないとできませんでした。 一方、今ではコーディングエージェントを使えば、うまくいかないタスクがあった際に、その場で修正をし、タスクが終わった後に、「今後も同じようなタスクで失敗しないようにSkillsを更新しておいて」と指示するだけで、仕組みの改善を自動的に行ってくれます。
今、この取り組みを始める人とそうでない人の間で、どんどん差が広がっていきます。
一過性のブームではないか?
テレビで昭和の駅ホームの映像を見た際に、多くの人がタバコを吸っていることに時代の違いを感じますが、それ以上に、携帯電話を見ずにただホームで待っている人々の姿に強い違和感を覚えました。いまの私たちは、数分の待ち時間でも情報を読み、連絡を取り、仕事を進め、意思決定をしています。スマートフォン以前の時間の使い方を、もはや自然には想像できません。インターネット時代にも過熱的なバブルはありましたが、インターネットやスマホがない世界には戻らず、そうしたインフラを前提として仕事や生活が進んでいます。
AIについても、同じことがすでに起きています。特に、プロダクト開発の世界は完全に変わりました。コードをエンジニアが自分の手で書くことはほとんどなくなっています。たくさんのSaaSが生まれては潰れていったとしても、コードを書く業務自体のあり方は別次元に到達するでしょう。すでにそうなりつつあります。
Markdown(.md)やSkillのような、人間にもAIにも読める記述形式など、上記を達成するために必要な幹となる技術を身につけていくことが大事です。
でもキャッチアップが大変ですよね(このサービス立ち上げの想い)
以下、私が尊敬するCharles & Ray Eamesの言葉と、それをもとにKenn Ejimaさんが今のAI時代に適用した言葉です。自分で創意工夫をしてこそ、AIを使いこなす力がついていくと私の経験からも確信しています。
Never delegate understanding.
理解することまで、誰かに委ねてはいけない。
— Charles & Ray Eames
As AI takes over the keystrokes, code literacy flips: writing is cheap, reading is survival. You can outsource the typing. The thinking stays on you.
Problems only take their mask off when you wrestle with them yourself. Skip that and your prompts turn mushy, your reviews go blind, accountability evaporates. When understanding is the last human job, you either own it or get replaced.
AIがコードを書く時代、「読む力」こそが生き残りの鍵になる。タイピングは任せられる。でも、考えることだけは自分に残る。
問題の本質は、自分でもがいて初めて見えてくる。それを飛ばせば、プロンプトはぼやけ、レビューは形だけになり、責任の所在も消える。「理解する」ことが人間に残された最後の仕事なら——自分のものにするか、置き換えられるか、どちらかだ。
— Kenn Ejima
とはいえ、今からキャッチアップして自分でやっていきたいとしても、XやYouTubeを見れば、日々たくさんの情報が流れ、たくさんのサービスが出てきて、「それをちょっと試さないとな」と思い、土日に時間を見つけて試しているうちに、新しいサービスが出てくる。色々やるにも方向性は欲しいなと思われる方も多いのではないでしょうか?AIエンジニアの私でも、そのうちの1人になっています。いくら時間があっても足りません。
私も同じ悩みを持つ一人ですが、その中でも情報のキャッチアップ方法に神経を使いつつ、AI業界で日々AIエンジニアや研究者のために便利なワークフローや知見を整備する仕事をしており、感謝されることも増えてきたので、ビジネスパーソンにもお役に立つことがあるのではと思い、上記のような悩みを持つ方のためにこちらのコンテンツを作りました。AIで人々の暮らしがよくなることを願っています。
この学習コンテンツは、流行り廃りにあまり影響されないような幹となる技術や本質的なトレンドに絞った内容にしています。いくつか最新機能の紹介といったところもありますが、基本的には私が技術トレンドを見てきて、これは廃れないだろうというところと、ある程度確立してきたワークフローに絞った学習コンテンツを作っています。
また、もし自分でも新しい情報をキャッチアップしていきたいという方には、以下の方をフォローするところから始めるのがおすすめです!
- Andrej Karpathy(X): OpenAIの創業者の1人であり、Vibe Codingという言葉の生みの親。群を抜いたAIの知識と経験に加え、どういう方向性に進んでいくのかという洞察が圧倒的です。少し専門的ですが、下手なイベントの未来予想のパネルディスカッションを見るより、彼のXのツイートの要約分析や彼が出たPodcastを聴く方が圧倒的に役に立ちます。
- Kenn Ejima(X): 日本人だとKenn EjimaさんのXがおすすめです。アメリカで数々のヒットサービスを作り、技術力だけではなく技術に対する洞察が素晴らしいです。Weights & Biases のイベントに来て登壇いただいたことがあるのですが、素晴らしい洞察で懇親会では彼の周りにすぐ輪ができていました。
その他、SakanaAIの秋葉さんやLayerXの松本さん、Wadanの吉崎さんなど、私が尊敬し、思慮深い方が何十人もおり、Xでフォローしたり、定期的に会話をさせてもらっているのですが、多く紹介しすぎても「キャッチアップが大変」になるので、以降はいろんな人と会話をしながら自分で探していってみてください。
このコンテンツが、多くの人の役に立つことを願っています。